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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)65号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無)

……本件特許発明は、加熱本体に基端から先端に向つて次第に痩削した膨出部を突設し、この膨出部の面に加熱本体の表面温度から該膨出部の先端の温度までを分布させ、この表面に生ずる温度差を利用して、熱溶着温度より高温の温度を加熱本体に加えると、加熱本体について厳密な温度調節をしなくても、包装材を溶着することができ、かつ、前記温度差により、加熱本体は同一温度条件に保つたままで熱溶着温度の異なる多種の包装材を溶着できるようにし、さらに、膨出部の熱容量が小さいため、包装材が溶融して膨出部、加熱本体表面等に接着してしまうこともないという作用効果を有するものであることが認められる。

ところで、第一引用例ないし第三引用例の公報によると、第一引用例ないし第三引用例には、それらにおいて突設されている膨出部(これらの引用例において、加熱体に、その先端に向つて先細りにした膨出部が突設されていること自体は、原告の自認するところである。)に温度分布ないし温度差の存することおよびこれを利用することについて何ら記載するところがないことは、原告の主張するとおりである。

しかしながら、当裁判所は、以下に述べる理由により、本件特許発明が叙上各引用例から容易に推考することができたもので無効であるとした本件審決は結局において是認すべきものであると認めざるをえない。すなわち、

1 本件の各引用例が、加熱体に、その先端に向つて先細りにした膨出部が突設されている構成のものであることは前記判示のとおりであり、かつ、第一引用例には「電熱半田ゴテ1の先端に回転板2を支点3で支持してなるビニール電熱接着機の構造」の考案が、第二引用例には「ポリエチレン樹脂、ビニール樹脂等の如く比較的低温度にて鎔融若しくは鎔軟し得る合成樹脂を加熱型によつて型付け若しくは型鎔着又は型鎔断するに当たり加圧メンバーの少くとも一方を目的の鎔融若しくは鎔軟を行ない得る温度に迄外部加熱を以て保熱した珪素ゴム糸の柔軟な板層を以てすることを特徴とする合成樹脂の熱加工法」の発明が、第三引用例には「電熱式封緘用の細長い押型3と並べてその側部に櫛歯状の受け枠5を固着し、受け枠5の櫛歯状凹欠内に活字式記号型6を着脱自在に挿嵌し、受け枠5の側部に記号型止めねじ8を螺装したプラスチック用ヒート・シーラーに於ける押型」の考案が記載されていることを認めるに十分である。

2 そして、一般に、加熱体に基端から先端に向つて痩削する(先細りになる)膨出部を設ける構成とした場合において、その基端部分において加熱するにとどめ、他に格別の措置をしないときは、当該膨出部の表面温度は、その構成上自然に生ずる放熱現象の結果として、基端から先端に向うにしたがつて次第に低下するものであること、これを換言すれば、当該膨出部の表面に温度分布ないし温度差の存することは、経験則上明らかなところといわなければならない。

3 さらに、また、加熱体に膨出部を設けた加熱器具において、その使用に当たり、当該膨出部に存する叙上のような温度分布ないし温度差を当該器具の使用目的に最もよく合致するように利用していることは、電気ごて、電気アイロン、ハンダごて等の使用の実状から、我々の日常見聞経験するところである。

4 さすれば、本件特許発明が「加熱本体に、基端から先端に向つて次第に痩削した膨出部を突設し」た「包装類の熱溶着装置」において「加熱本体の表面温度から該膨出部の先端の温度までをこの膨出部に分布さ」せるようにし、この温度分布を接着に際し利用するようにしたことは、この温度分布の設定につき特殊の手段方法を講じたことについて格別これを認めるべき証拠のない以上、たとえ前記各引用例に膨出部における温度分布ないし温度差の存在および包装類等の接着に際してのその利用という技術思想が明記されていないとしても、叙上の各引用例から当業者が容易に推考実施しえたところであると認めるのを相当とする。

5 そうであるとすると、その理由の説示においていささか明確を欠くところがあるとはいえ、結局においてこれと同趣旨であると認められる本件審決を違法とすることはできない。

6 原告は、とくに第二引用例に示されている加熱型にあつては、その膨出部に温度分布ないし温度差は存しない旨を主張する。なるほど、第二引用例の公報によると、第二引用例においては、加熱型によつて型付け若しくは型鎔着または型鎔断の加工をするに当たり、鎔軟した被加工物が加熱型の作動部に附着することを防止するため加熱型に設けられている作動部(膨出部)に珪素樹脂系物質の固形被層を密着的に形成する旨が記載されていることが認められる。そして膨出部にかかる固形被層が形成されている場合には、膨出部における温度分布ないし温度差の点において、固形被層の存在しない場合に比し何らか差異があるであろうということは、常識上推測されないわけではない。しかしながら、かかる固形被層の存在の結果として、膨出部に温度分布ないし温度差が全く存在しないということについては、原告の援用する甲第一一号証も、成立に争いのない乙第一号証と比較対照して検討すると、この点に関する原告の主張を肯定すべき断定的資料とまではなしがたく、他にこの点についての確証はない。のみならず、原告の右主張は、本件特許発明が各引用例から容易に推考実施しうるものであると認めるべき理由が前記1ないし5に判示したとおりである以上、叙上判示をくつがえすべき事由とはなりえないものといわなければならない。

(むすび)

三 以上説示のとおりであるから、本件審決につき、その主張のような違法があるとして、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却する。

(服部高顕 石沢健 奈良次郎)

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